[相談]
当社は、業務の関係上、頻繁にフリーランスのデザイナー(消費税免税事業者)にデザインを発注し、その報酬を支払っています。 その支払いにあたっては、従前から、デザイナーが発行した請求書に記載されている税抜金額に源泉徴収税率を乗じた金額を請求金額から控除し、これを納付しているのですが、インボイス制度開始にあたって、令和5年9月にそのデザイナーにインボイスの発行可否を確認したところ「発行できない(消費税免税事業者を継続する)」という回答がありました。 ただ、そのデザイナーへの支払報酬額については、これまでの当社との関係性や成果物の品質を考慮・検討した結果、特に減額するようなことはせず、従前どおり税抜相当の金額に10%消費税相当額を上乗せして支払っています(デザイナーからの請求書にも、税抜金額と消費税相当額が従前と同様に区分して記載されています)。 また、当社におけるそのデザイン報酬の経理処理については、いわゆる経過措置(課税仕入れに係る消費税額の80%相当額について仕入税額控除の適用を受ける措置)の適用を受けることとしています。 上記のような場合、源泉徴収税率を乗じるべき金額は、インボイス制度開始前と同様に税抜金額としてよいのでしょうか。教えてください。
[回答]
インボイス制度開始後も、デザイン報酬などの報酬・料金について源泉徴収税率を乗じるべき金額は、その請求書がインボイス(適格請求書)であるか否かにかかわらず、その請求書において税抜金額が明確に区分されていることを要件として、その税抜金額を源泉徴収の対象金額として差し支えないこととされています。
[解説]
1.報酬・料金等について源泉徴収を行う場合の対象金額
所得税法上、源泉所得税の徴収が必要と定められている報酬・料金等(※)が支払われる場合において、その報酬・料金等が消費税法上の課税資産の譲渡等の対価の額にも該当するときの源泉徴収の対象金額は、原則として、消費税等の額を含めた金額(税込価額)とされています。
ただし、報酬・料金等の支払を受ける者からの請求書等において報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額(税抜価額)を源泉徴収の対象とする金額として差し支えないこととされています。
(※)居住者に支払う報酬・料金等で所得税の源泉徴収が必要とされている主なものは、次のとおりです。
①原稿、さし絵、作曲、デザインの報酬、著作権使用料、講演料などの報酬又は料金
②弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、測量士、建築士、不動産鑑定士等の業務に関する報酬又は料金
③職業野球の選手、競馬の騎手、モデル、外交員等の業務に関する報酬又は料金
④芸能人等の役務の提供を内容とする事業に係るその役務の提供に関する報酬又は料金
⑤ホステス等のその業務に関する報酬又は料金
2.令和5年10月から令和8年9月に免税事業者から課税仕入れを行った場合の経過措置と、税抜経理を行っている場合の経理処理方法
消費税法上、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に行われたインボイス(適格請求書)発行事業者以外の者(消費税免税事業者など)からの課税仕入れについては、その課税仕入れに係る支払対価の額に係る消費税額に80%を乗じて算出した金額を課税仕入れに係る消費税額とみなすことと定められています。
このため、法人が税抜経理方式で経理している場合には、インボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、支払対価の額のうちインボイス制度導入前の仮払消費税等の額の80%相当額を仮払消費税等の額とし、残額を対価の額(税抜価額)として経理処理を行うこととされています。
3.インボイス制度開始後における源泉所得税の取り扱いの変更の有無
国税庁によれば、上記1.の源泉所得税の取扱いについては、令和5年10月1日の消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入後において、上記2.の経過措置による経理処理を適用していたとしても、その考え方に変更はないこととされています。
したがって、今回のご相談の場合、インボイス制度開始後において適格請求書発行事業者でない(消費税免税事業者である)フリーランスのデザイナーに支払うデザイン報酬については、従来どおり、そのデザイナーが発行する請求書において税抜金額が明確に区分されていることを要件として、その税抜金額を源泉徴収の対象金額とすることができます。
[参考]所法204、消法28、消法57の2、平成28年改正消法附則52、平成元年1月30日直法6-1「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて(法令解釈通達)」、国税庁「インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収」(令和3年12月9日)、国税庁「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」3の2、同(経過的取扱い)(2)、国税庁「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A」(令和3年2月)など
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